空き家の解体費用は誰が負担する?相続人・共有者の場合
父名義の空き家を解体する場合、見積額は兄弟で分けるのでしょうか?
父が亡くなり、実家は空き家になっています。市から屋根の傷みを指摘され、解体業者から見積りも取りました。相続人は兄弟3人ですが、誰が実家を相続するかはまだ決まっていません。兄からは「先に契約して、代金はあとで3人で分ければよい」と言われています。私の名前で契約した場合でも、解体費用は兄弟に請求できるのでしょうか。
一人で契約する前に、相続人全員で解体と費用の精算方法を決めます
遺産分割が終わっていない空き家は、原則として共同相続人の共有です。建物全体の解体は、危険箇所だけを直す応急措置とは違います。原則として、相続人全員の同意を得てから進めます。
解体業者との契約では、契約上の発注者が支払うのが通常です。自分だけの名前で契約すると、まずその契約に基づく支払いを求められます。相続人同士の最終的な負担は別の話で、あとから当然に人数分で精算できるとは限りません。
いまは工事を申し込む段階ではありません。現在の登記と相続人を確認し、現況の査定と解体見積りを取ったうえで、誰が契約し、どのお金から支払い、売却時にどう精算するかを文書に残す段階です。
相続財産である建物の解体は、相続財産の処分と判断される可能性があります。単純承認となれば、その後の相続放棄が認められないことがあります。危険が迫っている場合でも、「安全のためだから大丈夫」と一人で判断せず、市が求める範囲と相続放棄への影響を弁護士・司法書士へ確認します。
解体業者へ頼む前に、確認したいことは3つです
- 土地と建物は、いま誰の名義ですか?まず現在の登記を確認します。建物が亡くなった方の名義のままなら、戸籍、遺言書、遺産分割協議書、相続放棄の有無などから、解体について話し合うべき相続人を確かめます。固定資産税の納税通知書の宛名だけで、所有者や相続人を決めつけません。
- 全員が、建物全体の解体に同意していますか?共有建物を全部取り壊すことは、建物の形や使い道を失わせる大きな変更です。民法上、共有物に大きな変更を加えるには、原則としてほかの共有者の同意が必要です。「危険だから」「売る予定だから」という理由だけで、一人の相続人が解体まで決められるわけではありません。
- 誰が契約し、どのように精算するかを書面にしましたか?少なくとも、工事内容、見積額、追加工事の扱い、契約者、当面の支払者、相続人間の負担、補助金、売却代金から精算するかを記録します。兄弟だから人数で均等に負担するとは限りません。法定相続分、遺産分割の内容、誰が土地を取得するかなどを踏まえて合意します。
解体費用の負担は、この順番で決めます
- 現在の登記と相続人を確認する
土地と建物の登記事項証明書を確認します。登記名義人が亡くなっている場合は、遺言や遺産分割の有無、相続人の範囲、相続放棄の状況を確認します。相続登記がまだでも、相続の問題と空き家の管理は始まっています。
- 解体前の状態で売却査定を取る
古家付きの土地として売れる場合や、買主側で解体する条件を組める場合があります。先に建物を壊すと、その選択肢には戻れません。家財や傷みが残っていても、まず現況の査定を取ります。解体した場合の土地価格の見込みとは分けて確認します。
- 解体見積りは、含まれる作業を分けて確認する
建物本体だけでなく、残置物、庭木、塀、井戸、浄化槽、地中埋設物、アスベスト調査、重機の搬入条件などで費用は変わります。追加費用が発生する条件と、工事後に何が残るのかを見積書で確認します。
- 補助金は、契約・着工前に市区町村へ確認する
空き家の解体費を補助する自治体があります。ただし、対象となる建物、申請者、所得、工事業者、着工時期などの条件は自治体ごとに異なります。所在地の市区町村へ確認し、交付決定前に契約や着工をしないよう注意します。
- 全員の合意と費用の精算方法を残してから契約する
解体することだけでなく、誰が業者と契約するか、手付金や中間金を誰が出すか、補助金を誰が受け取るか、売却代金や遺産からどう精算するかまで決めます。メールだけで済ませず、必要に応じて合意書や遺産分割協議書へ反映します。
誰が負担するかは、空き家の権利関係で変わります
「相続人なら全員で払う」「契約した人だけが最後まで負担する」と、一つの決まりで説明することはできません。まず、いまの空き家がどの状態にあるかを分けます。
| 空き家の状態 | 解体を決める人 | 費用を決めるときの考え方 |
|---|---|---|
| 所有者が一人で存命 | その所有者 | 所有者が業者と契約して負担するのが通常 |
| 遺産分割前で相続人が複数 | 原則として共同相続人全員 | 解体への同意と、誰が立て替え、遺産・売却代金などからどう精算するかを全員で決める |
| 遺産分割で一人が取得 | 取得した人 | 取得者が負担するのが通常。ただし、遺産分割の中で別の精算方法を合意できる |
| 相続後も共有名義 | 原則として共有者全員 | 共有物の管理費用は持分に応じるのが原則だが、建物全体の解体費をどう分けるかは工事前に合意する |
| 行政代執行に至った | 市から措置を命じられた義務者 | 市が支出した実費について納付命令を受け、国税滞納処分の例による徴収の対象になり得る |
この表の「通常」「原則」は、相続人や共有者の間で別の合意がない場合の出発点です。たとえば、一人が土地を取得する代わりに解体費を負担する、売却代金から先に立替分を返す、補助金を差し引いた残額を一定割合で分ける、といった決め方もあります。
重要なのは、業者へ誰が支払うかと、家族の中で最終的に誰が負担するかを混ぜないことです。立て替える方がいる場合は、支払期限、精算時期、追加工事の上限、工事を中止する条件まで記録します。
市が解体してくれても、無料にはなりません
特定空家等について、市から命令を受けても必要な措置をしない場合は、行政代執行に進むことがあります。市は代わりに解体などを行えますが、税金で片づけて終わりではありません。実際に要した費用について、義務者へ文書で納付を命じます。
代執行費用は、国税滞納処分の例による強制徴収の対象です。自主解体の見積額より安くなる制度でも、費用の上限が決まった制度でもありません。
解体後は、建物滅失登記まで確認します
登記された建物を解体した後は、建物がなくなったことを登記へ反映する建物滅失登記が必要です。登記名義人が亡くなった方のままでも、相続人の一人から申請できます。相続人であることを確認できる戸籍などを添付します。
これは、相続人の一人だけで建物の解体を決めてよいという意味ではありません。解体について必要な同意と、解体後の滅失登記を申請できる人は別の問題です。土地を売る場合の相続登記も別に必要になります。建物滅失登記を土地家屋調査士へ依頼する費用も、解体後の費用として見込んでおきます。
私なら、見積書より先に登記と売り方を確認します

小野田 敦士
- 司法書士
- 行政書士
- 宅地建物取引士
最初に土地と建物の登記を確認します。相続人が何人いるのか、遺言や遺産分割で取得者が決まっているのかが分からなければ、解体の同意を取る相手も、費用の精算方法も決められないためです。
次に、建物が残った状態で査定します。土地として売るなら解体が必要に見えても、買主が解体費を見込んで購入することがあります。反対に、老朽化や接道条件から売却前の解体が必要になることもあります。
誰か一人が立て替えるなら、解体への同意だけで終わらせず、どのお金から、いつ返すのかまで決めます。あとから「解体には賛成したが、その金額を負担するとは言っていない」とならないように、契約前に残しておくことが大切です。
解体費を支払う前に、空き家をそのまま売る方法も確認できます
- 現在の登記と相続人を確認し、解体の話し合いに参加する方を整理します
- 家財や傷みが残る状態でも、空き家の現況を査定します
- 解体見積りと現況査定を確認し、解体前に売る方法があるかを検討します
- 売却する場合は、相続登記から不動産の手続まで同じ窓口で進めます
解体工事そのものや建物滅失登記は、必要に応じて解体業者・土地家屋調査士などと連携します。売却は選択肢の一つです。保有する場合や、相続人間でまだ話し合っている段階でも相談できます。
解体費をかける前に、建物が残った状態での査定額と売り方を確認できます。
空き家の現況査定を始める相続登記が終わっていなくても利用できます/売却を決める前でも構いません相続した空き家の解体費用についてよくある質問
相続人の一人が解体費を全額支払ったら、ほかの相続人へ請求できますか?
当然に人数分を請求できるとは限りません。解体の必要性、全員の同意、相続分、誰が不動産を取得するか、事前の費用合意などによって変わります。立て替える前に、金額と精算方法を文書に残します。
売却代金から解体費を返してもらうことはできますか?
相続人全員で合意し、売却代金から立替分を精算する方法は考えられます。解体費、仲介手数料、測量費など、先に差し引く費用と証拠書類を決めておきます。税務上の扱いは税理士へ確認します。
一人でも解体に反対していたら、工事はできませんか?
建物全体の解体は、原則として共有者全員の同意が必要です。所在が分からない共有者がいる場合などには裁判所の手続を検討できることがありますが、単に連絡へ返事がないというだけで工事を始めず、弁護士へ確認します。
相続登記をしてからでないと解体できませんか?
相続登記が終わっていないことだけで、解体が一律にできないわけではありません。ただし、相続人と必要な同意を確認してから契約します。解体後は、亡くなった方名義の建物について相続人の一人から建物滅失登記を申請できる場合があります。土地を売るための相続登記は別に必要です。
解体補助金が使えるなら、相続人の負担はなくなりますか?
補助金は費用の一部を補う制度が一般的で、対象や上限は自治体ごとに異なります。交付決定前の契約・着工が対象外になる場合もあります。自己負担分と、補助対象外の残置物撤去などを含めて資金を確認します。