空き家の行政代執行ではいくら請求される?過料との違い
市が空き家を解体したら、私が費用を払うのでしょうか?
相続した空き家について、市役所から修繕や草刈りを求める書面が届きました。自分では工事費を用意できず、このままにすると市が解体することもあると聞きました。その場合、解体費用は私が払うのでしょうか。「50万円以下の過料」という説明も見ましたが、50万円を払えば解体まで済むという意味ですか。
代執行の費用は、過料とは別に請求されます
市が所有者に代わって解体や危険箇所の除去などを行う行政代執行では、実際にかかった費用を所有者などの義務者から徴収する規定があります。50万円以下の過料は、特定空家等への命令に違反したときの別の負担です。50万円を納めれば解体費用まで済むという意味ではありません。
ただし、指導書を受け取った段階で、すぐに代執行費用や過料を請求されるわけではありません。まずは届いた書面が指導・勧告・命令のどれにあたるのかと、市が求めている作業内容を確かめます。
書面の内容によって、今できる対応が変わります
- 書面の名前と期限指導書なのか、勧告書や命令書なのかを見ます。期限までの対応が難しい場合でも、書面に記載された担当課へ、その事情と工事の見通しを伝えることが大切です。
- 求められている作業建物全体の解体なのか、傷んだ部分の修繕や庭木の剪定なのかを確かめます。「空き家だから全部解体」とは限りません。
- 自分で工事を頼む前に確認すること必要な工事の範囲と、補助金の対象になるかを市へ確認します。補助制度の条件は自治体ごとに異なるため、契約や着工の後では申請できない場合があります。
埼玉・東京では、次の金額が記録されています
公表資料を見ると、屋根材の飛散防止と庭木の剪定に約65万円、建物の解体に約185万円といった事例があります。残置物の多い建物では、代執行費用の請求額が約2,070万円となった記録もあります。
この図は過去の個別事例を紹介するものです。作業範囲や金額の種類が異なり、現在の解体相場や、あなたの空き家への請求見込みを示すものではありません。
坂戸市:屋根材の飛散防止と庭木の剪定に約65万円
2018年1月の坂戸市の事例では、木造2階建ての物置にメッシュシートを掛け、屋根材が周囲へ飛散するのを防ぎました。道路などへ越境していた立木の剪定も行い、資料には約65万円と記載されています。建物全体を解体した事例ではありません。
葛飾区:木造住宅の解体に約185万円
2016年3月の葛飾区の事例では、倒壊のおそれや外壁などの落下があった木造2階建て住宅を解体しました。国土交通省の資料には、解体等の費用が約185万円と記録されています。
板橋区:残置物の多い建物で約2,070万円の請求記録
2017年の板橋区の事例では、老朽化した建物の全部除却と、敷地内の残置物の撤去を行いました。区担当者の講演資料には、代執行費用として約2,070万円を請求した記録があります。
当初の予算は約2,580万円でしたが、この予算額をそのまま最終的な請求額として読むことはできません。財産管理人の選任に関係する費用も、代執行費用とは分けて扱われています。
面積は分かります。ただ、面積だけでは費用を見積もれません
今回紹介した事例は、建物の面積も資料に記載されています。延床面積は、建物の各階の床面積を合計したものです。敷地の広さとは異なります。
| 事例 | 資料に記載された延床面積 | 作業の範囲 |
|---|---|---|
| 坂戸市 | 46.18㎡ | 屋根材の飛散防止、越境した立木の剪定 |
| 葛飾区 | 約33.9㎡ | 建物の解体 |
| 板橋区 | 登記上約41㎡ | 建物の全部除却、敷地内残置物の撤去 |
いずれも木造2階建てですが、作業内容は同じではありません。この面積と金額から「1㎡当たりいくら」と計算しても、ほかの空き家の見積りにはそのまま使えません。
重機が入れるか、道路との高低差があるか、残置物がどの程度あるか、周囲をどのように保護するかなどで費用が変わります。あなたの空き家については、現地の状態と、市から求められた工事の範囲をもとに見積りを取る必要があります。
過料50万円は、解体代金ではありません
| 負担 | 発生する場面 | 金額の考え方 |
|---|---|---|
| 過料 | 特定空家等への命令に違反した場合 | 法定上限は50万円。裁判所が判断し、代執行になっただけで自動的に50万円になるわけではない |
| 行政代執行費用 | 市が解体や危険箇所への措置を代わりに行った場合 | 実際にかかった費用を徴収する制度。一律の上限額はない |
過料を納めたとしても、代執行費用がなくなるわけではありません。条件によっては両方の負担が生じ得ます。過料と、実際に解体や除去を行うための費用は別のものです。
代執行費用については、金額と納期限を記載した文書で納付を命じることが行政代執行法に定められています。納付されない場合には、国税滞納処分の例による徴収、つまり財産の差押えなどにつながる可能性があります。
支払うのが難しいときは、納期限を過ぎるまで待たず、請求元の自治体へ事情を伝えます。分割納付や猶予などを認めてもらえるかは個別の確認が必要で、連絡すれば必ず免除されるわけではありません。
指導書が届いた今、すべての費用が決まったわけではありません
通常の手続では、特定空家等への助言・指導、勧告、命令などを経て、命令に従わない場合に代執行が検討されます。管理不全空家等への指導と、特定空家等への命令は同じではありません。
所有者を確知できない場合の略式代執行や、災害などで命令を待てない場合の緊急代執行もあり、すべての案件が同じ順序で進むわけではありません。
指導書が届いたときの期限までの対応は、公開済みの記事「管理不全空家等の指導書が届いたら|期限までにすること」で説明しています。まず必要な修繕などを確認し、安全の確保と市への報告を進めます。
私なら、解体を決める前に必要な工事を確かめます

小野田 敦士
- 司法書士
- 行政書士
- 宅地建物取引士
事例の金額を見ると、「自分の家もこれくらいかかるのか」と思うかもしれません。ただ、まず知りたいのは、市がどこを危険と判断し、どの作業を求めているかです。建物全部の解体が必要なのか、傷んだ箇所への対応で足りるのかを確かめます。
相続した空き家なら、登記名義と相続手続の状況も確認します。今の状態で売却できる見込みがあるかを調べれば、解体費をかける前の判断材料になります。ただし、落下や飛散を防ぐ工事や、市への連絡は、売却の検討と並行して進めます。
解体する前に、今の状態でも査定できます
- 建物を残した状態での査定と、売却できる見込みの確認
- 相続人の確認、必要な相続手続、相続登記
- 所在地の除却補助金の条件確認と、対象になる場合の申請支援
- 届いている通知と、修繕・解体の見積りを踏まえた売却の相談
売却を決めていなくても構いません。査定を受けたことや売買契約を結んだことだけで、市が求める安全上の対応がなくなるわけではありません。
所在地と建物の状況を、分かる範囲で入力できます。
空き家の査定を始める売却を決める前でも利用できます。行政代執行の費用についてよくある質問
50万円を払えば、市が解体してくれるのですか?
いいえ。50万円以下の過料は、特定空家等への命令に違反した場合の負担です。行政代執行が行われれば、その費用は別に徴収される制度があります。過料は解体工事の料金ではありません。
小さな建物なら、代執行の費用も安く済みますか?
面積だけでは判断できません。小さな建物でも、残置物が多い、重機が入れない、周囲の保護に手間がかかるなどの事情で費用が変わります。紹介した事例の金額を、あなたの空き家にそのまま当てはめることはできません。
工事費を用意できなければ、何もできませんか?
まず市が求めている作業の範囲を確認します。一部の修繕などで足りるのか、補助制度の対象になるか、今の状態で売却できる見込みがあるかを検討できます。ただし、実際に使える制度や対応は物件によって異なります。
相続登記が終わっていなくても、請求されることがありますか?
登記名義が亡くなった方のままでも、相続人が行政上の対応や費用徴収の対象になることがあります。誰がどの負担を負うかは、相続放棄の有無、所有・管理の状況などで異なります。宛名だけで判断せず、届いた書面と相続関係を確認します。