空き家の行政代執行ではいくら請求される?過料との違い
市が空き家を解体したら、私が費用を払うのでしょうか?
相続した空き家について、市役所から修繕や草刈りを求める書面が届きました。自分では工事費を用意できず、このままにすると市が解体することもあると聞きました。その場合、解体費用は私が払うのでしょうか。「50万円以下の過料」という説明も見ましたが、50万円を払えば解体まで済むという意味ですか。
代執行の費用は、過料とは別に請求されます
市が所有者に代わって解体や危険箇所の除去などを行う行政代執行では、実際にかかった費用を所有者などの義務者から徴収する規定があります。50万円以下の過料は、特定空家等への命令に違反したときの別の負担です。50万円を納めれば解体費用まで済むという意味ではありません。
ただし、指導書を受け取った段階で、すぐに代執行費用や過料を請求されるわけではありません。まずは届いた書面が指導・勧告・命令のどれにあたるのかと、市が求めている作業内容を確かめます。
書面の内容によって、今できる対応が変わります
- 書面の名前と期限指導書なのか、勧告書や命令書なのかを見ます。期限までの対応が難しい場合でも、書面に記載された担当課へ、その事情と工事の見通しを伝えることが大切です。
- 求められている作業建物全体の解体なのか、傷んだ部分の修繕や庭木の剪定なのかを確かめます。「空き家だから全部解体」とは限りません。
- 自分で工事を頼む前に確認すること必要な工事の範囲と、補助金の対象になるかを市へ確認します。補助制度の条件は自治体ごとに異なるため、契約や着工の後では申請できない場合があります。
全国の記録を、費用と面積で見てみます
国土交通省などの資料から、22件の記録を確認しました。建物を除却した実施費用が14件、部分的な作業が7件、請求額の記録が1件です。行政代執行と略式代執行の両方が含まれます。まずは、面積も分かる13件の建物除却から見ていきます。
横にスクロールすると、面積と1㎡当たりの数値も見られます。
| 事例・構造 | 実施費用(円) | 延床面積(㎡) | 1㎡当たり(円/㎡) |
|---|---|---|---|
| 柏市鉄骨2017年・38.5㎡ | 約10,400,000円 | 約38.5㎡ | 約270,130円/㎡ |
| 十日町市・元旅館その他2017年・633.1㎡ | 約10,400,000円 | 約633.1㎡ | 約16,427円/㎡ |
| 瑞浪市木造2018年・336㎡ | 約6,000,000円 | 約336㎡ | 約17,857円/㎡ |
| 宗像市・2017年木造2017年・192㎡ | 約4,400,000円 | 約192㎡ | 約22,917円/㎡ |
| 旭川市木造2017年・207㎡ | 約4,100,000円 | 約207㎡ | 約19,807円/㎡ |
| 香取市・店舗併用住宅木造2017年・145㎡ | 約3,000,000円 | 約145㎡ | 約20,690円/㎡ |
| 十日町市・住宅木造2017年・135㎡ | 約2,700,000円 | 約135㎡ | 約20,000円/㎡ |
| 葛飾区木造2016年・33.9㎡ | 約1,850,000円 | 約33.9㎡ | 約54,572円/㎡ |
| 宗像市・2016年木造2016年・79㎡ | 約1,840,000円 | 約79㎡ | 約23,291円/㎡ |
| 神戸市木造2018年・26㎡ | 約1,600,000円 | 約26㎡ | 約61,538円/㎡ |
| 台東区木造2018年・40㎡ | 約1,500,000円 | 約40㎡ | 約37,500円/㎡ |
| 上市町木造2016年・118㎡ | 約1,350,000円 | 約118㎡ | 約11,441円/㎡ |
| 鳥取市木造2016年・74㎡ | 約800,000円 | 約74㎡ | 約10,811円/㎡ |
工事内容・数値・出典を見る
面積・計算方法・出典の補足
出典:国土交通省「地方公共団体の空き家対策の取組事例」等。2016~2018年の個別記録です。基礎を残す工事や残置物撤去など、含まれる作業は各行に記載しています。野洲市の共同住宅は規模と金額が大きく異なるため、後の内訳グラフで紹介します。全国の全事例を網羅した統計ではありません。 延床面積は各階の床面積の合計で、敷地面積とは異なります。瑞浪市は245㎡と91㎡の2棟を足した336㎡、十日町市の元旅館は5棟合計の約633.1㎡です。鳥取市は住宅本体ではなく附属鶏舎の数値です。 計算式:公表された実施費用÷公表された延床面積。1円単位で四捨五入しています。元の金額や面積に概数が含まれるため、計算結果も参考値です。工事の見積単価ではありません。部分措置、請求額のみの事例、延床面積不明の野洲市は含めていません。
棒の長さは列ごとに比較します。1㎡当たりは実施費用を延床面積で割った参考値であり、解体の見積単価ではありません。詳しい工事内容と出典は、下の「工事内容・数値・出典を見る」から確認できます。
記録にある金額は、鳥取市の附属鶏舎の約800,000円から、柏市の事務所と十日町市の元旅館のそれぞれ約10,400,000円まで幅があります。住宅だけでなく店舗併用住宅や倉庫、鶏舎も含まれるため、住宅解体の相場としては読まないでください。資料で分かる用途と作業内容も、金額と一緒に確認できます。
工事内容・数値・出典を見る
| 対象 | 数値 |
|---|---|
| 柏市鉄骨千葉県・2017年/行政代執行/鉄骨造3階建て・事務所/建物の除却。JR常磐線・通学通勤路に近接/延床面積約38.5㎡。敷地23㎡とは別 | 約10,400,000円 |
| 葛飾区木造東京都・2016年/行政代執行/木造2階建て・住宅/建物の除却等/延床面積約33.9㎡ | 約1,850,000円 |
| 神戸市木造兵庫県・2018年/略式代執行/木造2階建て・住宅/建物の除却。基礎は除く/延床面積約26㎡ | 約1,600,000円 |
| 台東区木造東京都・2018年/略式代執行/木造2階建て・住宅/建物の解体・残置物撤去。基礎は除く/延床面積約40㎡ | 約1,500,000円 |
延床面積が約26~40㎡の4件を抜き出しました。木造住宅3件と鉄骨造事務所1件で、用途や階数、周囲の条件はそれぞれ異なります。構造の違いだけを測った比較ではありません。
葛飾区の木造住宅は約33.9㎡で約1,850,000円、柏市の鉄骨造事務所は約38.5㎡で約10,400,000円でした。面積が近くても、実際にかかった金額には差があります。ただし、この差のすべてを木造か鉄骨造かの違いと考えることはできません。柏市の建物は3階建てで、JR常磐線や通学・通勤路に近接していました。
スマートフォンでは図を横にスクロールできます。
番号ごとの事例・数値・出典を見る
横軸は延床面積、縦軸は実施費用です。両方の数値が確認できる13件を表示しています。記号は丸が木造、ひし形が鉄骨造、四角が混合構造等を表します。番号に対応する事例名は、下の「番号ごとの事例・数値・出典を見る」を開くと確認できます。同じ条件の住宅を比べたものではないため、回帰線や全国平均は示していません。
柏市の事例は、面積が小さい側にありながら費用は高額な側にあります。一方、同じ約10,400,000円の十日町市の元旅館は、面積の大きい側です。金額だけでなく、用途や棟数、何を撤去したのかまで見ないと、ご自身の空き家に近い事例かどうかは分かりません。
工事内容・数値・出典を見る
| 対象 | 数値 |
|---|---|
| 周南市木造山口県・2017年/行政代執行/木造平屋建て/建物一部の除却・補修 | 約2,200,000円 |
| 香取市・ビル一部その他千葉県・2017年/略式代執行/RC造4階建て・店舗ビル/附属屋・屋上塔屋・破損ガラス等の撤去 | 約1,200,000円 |
| 坂戸市木造埼玉県・2018年/行政代執行/木造2階建て・物置/屋根の飛散防止メッシュシート・越境立木の剪定 | 約650,000円 |
| 東近江市・草木その他滋賀県・2016年/略式代執行/草木の管理/草木の除去 | 約350,000円 |
| 町田市その他東京都・2017年/略式代執行/建物構造は資料に記載なし/アンテナ・軒樋・トタン板塀の除去、樹木伐採 | 約300,000円 |
| 香取市・塀その他千葉県・2017年/略式代執行/ブロック塀/傾斜したブロック塀の除却 | 約200,000円 |
| 東近江市・草木と窓その他滋賀県・2017年/略式代執行/草木の管理・建物補修/草木除去・最低限の窓の補修等 | 約180,000円 |
出典:国土交通省の取組事例、PDF6・9・13・14・17・21・22ページ。建物全体を除却した費用とは別に掲載しています。資料の建物面積は作業面積ではないため、1㎡当たりの費用は計算していません。
坂戸市は屋根の飛散防止と立木の剪定で約650,000円、周南市は建物一部の除却と補修で約2,200,000円でした。草木の除去だけの記録や、塀を取り壊した記録もあります。市から対応を求められても、必ず建物全部の解体になるわけではありません。まずは書面に書かれた作業の範囲を確認します。
野洲市の共同住宅では、工事以外の費用も公表されています
野洲市では2020年、9戸の区分所有建物である鉄骨造3階建ての共同住宅を除却し、合計118,132,460円の費用が記録されています。資料にはアスベストの検出も記載されています。戸建てとは規模も条件も違いますが、どの費用が含まれたかが分かる事例です。
工事内容・数値・出典を見る
| 対象 | 数値 |
|---|---|
| 解体工事請負費野洲市・2020年/実施費用の内訳 | 111,659,900円 |
| 解体工事設計業務委託料野洲市・2020年/実施費用の内訳 | 3,601,800円 |
| 工事監理業務委託料野洲市・2020年/実施費用の内訳 | 2,145,000円 |
| 工事関係の土地借上料野洲市・2020年/実施費用の内訳 | 725,760円 |
出典:野洲市の実務資料、PDF12ページ。4項目の合計は118,132,460円です。棒の長さは同じ尺度です。公表資料で延床面積を確認できないため、1㎡当たりの金額は算出していません。
内訳には解体工事の請負費だけでなく、設計業務、工事監理、工事に使う土地の借上料もあります。「工事代だけを払う」と考えていると、こうした費用を見落としてしまいます。なお、この事例から、すべての代執行で同じ項目が発生するとまでは言えません。
板橋区の記録は、予算と請求額を分けて読みます
板橋区の2017年の事例には、木造建物の全部除却と大量の残置物撤去について、予算約25,800,000円、請求約20,700,000円の記録があります。この2つは同じ金額ではありません。請求額を、上の13件の実施費用へ混ぜてはいません。
工事内容・数値・出典を見る
| 対象 | 数値 |
|---|---|
| 予算額の記録板橋区・2017年/建物全部除却・敷地内残置物撤去 | 約25,800,000円 |
| 請求額の記録板橋区・2017年/建物全部除却・敷地内残置物撤去 | 約20,700,000円 |
出典:板橋区担当者による実務報告(掲載誌60・64ページ)。予算額と請求額を区別して表示しています。区の概要資料では登記上の延床面積は約41㎡ですが、敷地内の大量の残置物撤去も含むため、建物の解体単価として扱いません。
高額な記録があるからといって、ご自身の空き家にも同じ額が請求されるわけではありません。ただ、放置する前に、必要な修繕・解体の見積りと、今の状態で売る場合の査定額を確かめておく理由にはなります。市が求める安全上の対応を進めながら、その後どうするかを金額で考えていきます。
過料50万円は、解体代金ではありません
| 負担 | 発生する場面 | 金額の考え方 |
|---|---|---|
| 過料 | 特定空家等への命令に違反した場合 | 法定上限は50万円。裁判所が判断し、代執行になっただけで自動的に50万円になるわけではない |
| 行政代執行費用 | 市が解体や危険箇所への措置を代わりに行った場合 | 実際にかかった費用を徴収する制度。一律の上限額はない |
過料を納めたとしても、代執行費用がなくなるわけではありません。条件によっては両方の負担が生じ得ます。過料と、実際に解体や除去を行うための費用は別のものです。
代執行費用については、金額と納期限を記載した文書で納付を命じることが行政代執行法に定められています。納付されない場合には、国税滞納処分の例による徴収、つまり財産の差押えなどにつながる可能性があります。
支払うのが難しいときは、納期限を過ぎるまで待たず、請求元の自治体へ事情を伝えます。分割納付や猶予などを認めてもらえるかは個別の確認が必要で、連絡すれば必ず免除されるわけではありません。
指導書が届いた今、すべての費用が決まったわけではありません
通常の手続では、特定空家等への助言・指導、勧告、命令などを経て、命令に従わない場合に代執行が検討されます。管理不全空家等への指導と、特定空家等への命令は同じではありません。
所有者を確知できない場合の略式代執行や、災害などで命令を待てない場合の緊急代執行もあり、すべての案件が同じ順序で進むわけではありません。
指導書が届いたときの期限までの対応は、公開済みの記事「管理不全空家等の指導書が届いたら|期限までにすること」で説明しています。まず必要な修繕などを確認し、安全の確保と市への報告を進めます。
私なら、解体の見積りと今の状態での査定を確かめます

小野田 敦士
- 司法書士
- 行政書士
- 宅地建物取引士
市から書面が届いているなら、まず求められている工事の内容を確かめます。その範囲で見積りを取り、解体する前の状態でも売却できるかどうか査定を進めます。見積りと査定額の両方が分かると、解体費用をかけるべきか判断しやすくなります。
売却を決めていなくても、金額を確かめておくことはできます。相続した空き家なら、現在の登記を確認して、売却までに必要な相続手続も調べておきます。ただし、危険な箇所への対応や市への連絡は、売却の検討が終わるのを待たずに進めます。
解体する前に、今の状態でも査定できます
- 建物を残した状態での査定と、売却できる見込みの確認
- 相続人の確認、必要な相続手続、相続登記
- 所在地の除却補助金の条件確認と、対象になる場合の申請支援
- 届いている通知と、修繕・解体の見積りを踏まえた売却の相談
解体を決める前でも、売却するか迷っている段階でも構いません。修繕や解体の見積りがあれば、それも踏まえて相談できます。ただし、査定を受けただけで、市が求める安全上の対応が不要になるわけではありません。
所在地と建物の状況を、分かる範囲で入力できます。
空き家の査定を始める売却を決める前でも利用できます。行政代執行の費用についてよくある質問
鉄骨造だと、木造より必ず高くなりますか?
この記事の事例だけでは、そう判断できません。木造と鉄骨造では、建物の階数や用途、広さ、工事をする場所の条件も異なります。構造は費用を検討する要素の一つですが、実際の金額は現地を見た見積りで確かめる必要があります。
50万円を払えば、市が解体してくれるのですか?
いいえ。50万円以下の過料は、特定空家等への命令に違反した場合の負担です。行政代執行が行われれば、その費用は別に徴収される制度があります。過料は解体工事の料金ではありません。
小さな建物なら、代執行の費用も安く済みますか?
面積だけでは判断できません。小さな建物でも、残置物が多い、重機が入れない、周囲の保護に手間がかかるなどの事情で費用が変わります。紹介した事例の金額を、あなたの空き家にそのまま当てはめることはできません。
工事費を用意できなければ、何もできませんか?
まず市が求めている作業の範囲を確認します。一部の修繕などで足りるのか、補助制度の対象になるか、今の状態で売却できる見込みがあるかを検討できます。ただし、実際に使える制度や対応は物件によって異なります。
相続登記が終わっていなくても、請求されることがありますか?
登記名義が亡くなった方のままでも、相続人が行政上の対応や費用徴収の対象になることがあります。誰がどの負担を負うかは、相続放棄の有無、所有・管理の状況などで異なります。宛名だけで判断せず、届いた書面と相続関係を確認します。