相続人宛てに空き家の通知が届いたら|最初に確認すること
市から私宛てに手紙が届きました。修理代も私が払うのでしょうか?
父が亡くなってから空き家になっている実家について、市役所から私宛てに手紙が届きました。「屋根が傷んでいるので対応してください」と書かれています。兄弟もいますが、実家を誰が相続するかは決まっておらず、登記も父の名義のままです。私宛てに届いた以上、修理代もすべて私が払わなければならないのでしょうか。相続の話し合いが終わるまで、対応を待ってもよいのでしょうか。
手紙が届いたからといって、修理代を一人で負担すると決まったわけではありません
手紙の宛名になっていることだけで、修理代を誰が負担するかまで決まるわけではありません。とはいえ、相続の手続きが終わっていないからといって、危険な状態をそのまま放置することもできません。まずは手紙に記載された担当課へ連絡し、求められている作業内容と期限を確認します。
ほかの相続人にも手紙の内容を共有し、現在の登記と相続の状況を確かめます。いま必要な応急対応と、実家を誰が引き継ぐか・売るかという今後の話し合いは、切り離して進められます。
この手紙で初めて自分が亡くなった方の相続人になっていると知った場合は、相続放棄の原則3か月の期限が進み始める可能性があります。市が示した工事の期限とは別です。手紙と封筒を手元に残し、受け取った日やそれ以前に知っていた事情を弁護士・司法書士へ伝えてください。
その事情を市の担当課へ伝え、工事の契約や建物の解体を決める前に、弁護士や司法書士へ確認してください。相続財産の処分にあたる行為をすると、相続を受け入れたとみなされる原因になることがあります。危険が迫っている場合でも、必要な対応の範囲を市や専門家へ確認します。
最初に確認したいのは、この3つです
- 手紙は、どの建物について何を求めていますか?手紙に書かれた所在地、指摘された箇所、作業内容、期限、担当課を確認します。「修繕」「除去」とあっても、建物全体の解体まで求めているとは限りません。屋根材だけの対応で足りるのか、担当課へ確認します。
- その土地と建物は、いま誰の名義になっていますか?ご家族の記憶だけでなく、現在の登記で確認します。固定資産税の課税明細書などが手元にあれば、土地の地番や建物の家屋番号が手掛かりになります。普段の住所だけでは登記を取得できない場合もあるため、分からなければ司法書士へ確認を依頼できます。
- 相続について、すでに決まっていることはありますか?遺言書や、実家の取得者を決めた遺産分割協議書があるかを確認します。相続放棄をした方がいる場合も含め、誰が相続人になるかは戸籍や関係書類で確かめます。「兄弟がいるから兄弟だけで決めればよい」とは限らないためです。
名義が父のままでも、「まだ自分には関係ない」とは言えません
相続による権利の引継ぎは、登記を変えたときに初めて起こるわけではありません。相続人が複数いて、遺言や遺産分割などで取得者が決まっていない場合、遺産は原則として相続人全員の共有になります。
手紙が自分に届いたことは、自分だけの所有物になったという意味ではありません。逆に、登記が亡くなった方の名義のままであっても、相続した方に管理の問題が生じることがあります。
市が調べた相続関係と、ご家族が把握している事情に食い違いがあれば、担当課へ伝えます。すでに遺産分割を終えていた、別の方が取得していた、相続放棄が受理されていたといった事情を、確認できる資料とともに説明します。
市への連絡と、相続の確認を並行して進めます
- まず、手紙に書かれた担当課へ連絡する
「相続の話し合いが終わっていない」「ほかにも相続人がいる」など、現在分かっている事情を伝えます。危険な箇所と必要な措置、期限、工事後の報告方法を確認します。まだ確認できていない所有関係や費用の負担割合まで、その電話で決める必要はありません。
- 手紙と現地の写真を、ほかの相続人にも共有する
自分だけが受け取っている場合でも、手紙の写しを送って共有します。屋根などの危険な場所へ自分で上るのは避け、管理業者や工事業者に現地確認を依頼する方法があります。相続放棄を検討中の方は、依頼や契約をする前に専門家へ確認してください。
- 必要な応急措置の範囲と、見積りを確認する
落下しそうな部材の固定や、雨水の侵入を防ぐ小修繕など、急いで行う必要がある作業を確認します。できる限り着工前に、工事の内容、契約する人、支払い方を相続人間で共有します。工事前後の写真や見積書、請求書もしっかり残しておきます。
- 市へ対応状況を報告し、その間に登記と相続関係を確認する
作業が終わったら、市が求める方法で報告します。期限に間に合わない場合は、見積りの依頼状況や工事予定を早めに伝えてください。連絡を入れただけで期限が自動的に延びるわけではありません。実家の取得者や今後の使い方は、資料を確認しながら話し合っていきます。
応急修理と、建物全体の解体は同じ扱いではありません
ほかの相続人と連絡が取れないときでも、何もできないとは限りません。ただし、「危険だから」という理由だけで、建物全体の解体まで一人で決められるわけでもありません。作業の内容によって、必要な同意が変わります。
| したいこと | 同意の考え方 | 契約前に確認したいこと |
|---|---|---|
| 危険を防ぐための小修繕・応急措置 | 財産の状態を保つための「保存行為」なら、共有者の一人でもできる場合があります | 本当に必要な範囲か。大規模な工事や処分になっていないか |
| 継続的な管理や、通常の管理に当たる工事 | 原則として、人数ではなく持分の価格の過半数で決めます | 工事が管理・保存・変更のどれに当たるか。費用の負担方法 |
| 建物全体の解体や、不動産全体の売却 | 原則として共有者全員の同意が必要です | 所有者・相続人、同意、売却に必要な相続登記 |
この表は、ほかの共有者の同意が必要かどうかの説明です。相続放棄ができるかどうかとは別に確認します。「一人でできる保存行為だから、相続放棄も心配ない」とは判断できません。作業が本当に保存行為に当たるかに加え、相続放棄の期限についても確認が必要です。
この区分は作業の名称だけでは決まりません。建物の状態や工事の規模によって判断が変わり、裁判所の手続きが必要な場合もあります。家族で合意できないまま解体を契約することは避け、弁護士などへ確認してください。
修理代は、手紙の宛名ではなく、権利関係と工事の内容から考えます
共有物の管理費用は、原則として持分に応じて負担します。ただし、どの工事費が必要な管理費用に当たるか、相続人間で別の合意があるかなどによって、具体的な負担は変わります。手紙を受け取った方が、当然に全額を負担するわけではありません。
工事業者への支払いと、相続人同士の費用の精算は別です。自分の名前で工事を契約すれば、業者に対しては自分が支払う義務を負うことがあります。「あとで兄弟に請求すればよい」と考えて、先に大きな工事を頼まない方がよいでしょう。
着工前に、必要な作業、見積額、誰が契約するか、立て替えた分をどう精算するかを、メールなどで残しておくと話し合いやすくなります。緊急対応で事前の合意が難しかった場合は、危険な状態と対応の必要性が客観的に分かる写真や記録を残します。ただし、記録を残したからといって、あとで必ず全額を回収できると保証されるわけではありません。
通知を受け取ったら、相続放棄の期限も確認します
家庭裁判所で相続放棄が受理されている場合は、その事情を市の担当課へ伝えます。市から資料の提出を求められたら、相続放棄申述受理通知書や受理証明書など、必要な書類を確認します。家族の間で「実家はいらない」と話しただけでは、相続放棄にはなりません。
相続放棄の期間は、原則として、亡くなったことと自分が相続人になったことを知ったときから3か月です。市の通知で初めてその事情を知った場合は、通知が期限の始まりを判断する手掛かりになります。たとえば、先順位の相続人が放棄したことで、自分が相続人になったと通知で初めて知るような場合です。すでに自分が相続人だと知っていた方は、通知によって新しく3か月が始まるわけではありません。
「とりあえず応急修理だけして、相続するかは後で考えよう」としている間にも、相続放棄の期限は進みます。保存行為に当たる対応であっても、期限が止まったり延びたりするわけではありません。期間内に相続放棄や限定承認をしなければ、原則として相続を受け入れたとみなされ、相続放棄ができなくなるおそれがあります。
財産や借金を調べても期限内に判断できない場合は、期限内に家庭裁判所へ、相続の承認又は放棄の期間の伸長を申し立てる方法があります。市への相談や専門家への相談だけで期限が延びるわけではありません。すでに3か月が過ぎていると思う場合も、いつ何を知ったかによって検討が必要になるため、自己判断で諦めず、早めに弁護士・司法書士へ確認してください。
放棄が受理された後も、放棄の時にその財産を現に占有していた方には、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで、財産を保存する義務が残ります。すべての放棄者が一律に空き家を管理するという制度ではありません。自分がその家をどのように使い、管理していたかによって確認が必要です。
私なら、手紙だけでなく、現在の登記から確認します

小野田 敦士
- 司法書士
- 行政書士
- 宅地建物取引士
手紙が届いた方を、そのまま実家の所有者だとは考えません。現在の登記と、遺言書や以前の協議書を確認し、誰と話し合う必要があるのかを確かめます。祖父母の名義のままなら、親の相続だけでは済まないこともあります。
その確認を進めながら、市がどこまでの対応を求めているかを見ます。いま必要なのが応急修理なのか、建物全体の解体なのかによって、同意の範囲も費用も違うからです。
売るか残すかを、この手紙だけで決める必要はありません。危険な部分に必要な対応を確認したうえで、建物を残した状態での査定もできます。解体費をかける前に、いまの状態でいくらで売れそうかを知っておくと、家族で話し合う材料になります。
誰が相続するか決まっていなくても、査定から始められます
- 現在の登記と相続関係を調べ、話し合いに必要な方を確認します
- 遺産分割で合意できた内容を、相続登記の手続きへつなぎます
- 空き家を解体せず、いまの状態での売却査定を行います
- 修繕や解体の見積りと査定額を、今後の判断材料として確認します
査定は、売却や解体への同意を代わりにするものではありません。相続人間で意見が対立している場合の交渉は、弁護士へ相談する範囲です。売却を依頼しなくても、相続登記について相談できます。
相続した空き家が、いまの状態でどのくらいの価格になりそうかを確認できます。売却はまだ決めていなくても構いません。
相続した空き家の査定を始める分かる範囲から入力できます/売却を決める前でも利用できます相続人に届いた空き家の通知についてよくある質問
私だけに手紙が届いたので、私だけが相続人なのでしょうか?
手紙の宛名だけでは判断できません。ほかにも相続人がいる、取得者がすでに決まっている、相続放棄をした方がいる場合があります。現在の登記と、戸籍・遺言書・協議書などで確認します。
相続登記が終わるまで、修理を待ってもよいですか?
相続登記が終わっていないことだけを理由に、危険な状態を放置することはできません。保存行為に当たる応急措置なら、共有者の一人で行える場合があります。ただし、相続放棄の期限が止まるわけではありません。放棄を検討中なら、契約前に作業の範囲と期限を専門家へ確認し、市にも事情を伝えてください。
兄弟と連絡が取れません。一人で解体してもよいですか?
共有の建物全体を解体するには、原則として共有者全員の同意が必要です。連絡が取れないだけで、その同意を省略できるわけではありません。必要な保存行為と解体を区別し、所在不明者がいる場合の裁判所の手続などを弁護士へ確認します。
市へ相続人代表者の届出を済ませています。登記も変わっていますか?
市役所へ固定資産税の届出を出しても、法務局の登記名義は変わりません。納税通知書の送付先を決める手続きと、相続登記は別です。市への届出を済ませている場合も、現在の登記を別に確認します。
この手紙を受け取った日から、相続登記の3年が始まるのでしょうか?
一律に手紙の到着日からではありません。相続の開始と、その不動産を相続で取得したことを知った日が基準です。2024年4月1日より前からその事情を知っている未登記の相続は、原則として2027年3月31日が期限です。市への対応期限とは別に確認します。